政府、与党は6日、2022年度税制改正の焦点である住宅ローン減税の概要を固めた。21年末で期限が切れる制度を4年間延長し、所得税と住民税から差し引く控除率は年末のローン残高の1%から0・7%に引き下げる。一般的な新築住宅の場合、22年から当面の措置として、残高の上限を現行の4千万円から3千万円とする一方、原則10年としている減税期間は13年に延長する。
住宅取得者が受ける減税規模は、これまでの最大400万円から最大273万円に縮小する。対象者の所得要件は現行の3千万円以下から2千万円以下に引き下げることも固まった。
例えばローン残高が5000万円以上ある場合、単純計算でこれまで10年間で最大500万円が控除されていたところ、控除率が0.7%に引き下げられれば、その額は最大350万円となり、150万の差が生じることになる。
控除率引き下げによる住宅市場の落ち込みを避けるため、政府は控除期間を現行の10年から15年などに延長することも検討しているというが、控除率縮小のインパクトを考えると、家の購入を検討している人にとっては改正前に急いで“駆け込み購入”すべきか悩ましい状況ではないだろうか。実際のところどう判断すべきなのか。家計の見直し相談センター代表でファイナンシャルプランナーの藤川太氏は、冷静な判断を呼びかける。
「まず念頭に置いてほしいのは、不動産購入にあたっては、住宅ローンの減税額よりも物件価格そのものの方が金額的なインパクトが大きいということです。確かに減税額も小さくはありませんが、物件価格は値引き交渉や値崩れなどで500万円ほど下がることも珍しくありません。トータルで考えれば物件価格のインパクトの方がはるかに大きい」(藤川氏、以下同)
不動産経済研究所が11月18日に発表した首都圏新築分譲マンションの1戸当たり平均格は、前年同月比10.1%増の6750万円。コロナ禍にもかかわらず、不動産価格は1990年のバブル期の6414万円を超えて過去最高となっている。そう考えると、いま焦って買うのは損なのか。藤川氏は「一概にはそうとも言えない」と語る。
「注意したいのは、果たして今が高値のピークなのかということ。足元の状況を見ると、まだまだ不動産価格は下がりそうもありません。コロナ禍の人手不足で、生産から物流までありとあらゆるところで“目詰まり”を起こしており、原油をはじめ資材価格も高騰が続いています。『ウッドショック』と呼ばれるように、木材や鉄などの住宅資材は世界的に高騰し、高まる需要に対して供給不足が拍車をかけ、物件価格が高止まりしているのです。
そこに加えて職人の高齢化が進み、建設業界も人材不足の状況が続いている。当面は人件費も下がる見通しはありません。この分だと資材価格と人件費の高止まりがしばらく続く可能性も十分考えられます。不動産市況はバブルのような状態と考えていますが、今後はもっと高くなり、振り返ると“いまの方が安かった”となるかもしれません」
不動産価格の高騰は遅れてやって来る
日本銀行が11月11日に発表した10月の企業物価指数(企業同士が売買する物価の動向)は、前年同月比で8.0%も上昇。これは、第2次オイルショックの影響が残る1981年1月以来、40年9か月ぶりの伸び率だ。
「ガソリンや食品の一部で値上がりが目立つとはいえ、10月の消費者物価指数は前年同月比0.1%増とほぼ横ばいで、企業物価が上昇しても、それを小売価格に転嫁できていない状況が見て取れます。ただ、この状況がいつまでも続くわけではなく、どこかで転嫁できなければ企業がもたない。本格的に消費者が物価高騰を実感するのはこれからという状況です。特に、不動産は価格に跳ね返ってくるのが遅い傾向があるので、物件価格はまだまだ高くなる余地があると考えることもできます」
住宅ローン減税の改正が目前に迫り、買い時かどうかの見極めも難しい状況の今、何を一番に優先して考えるべきなのか。
「最も重要なのは、住宅ローン減税の動向に左右されるのではなく、ローンを組んで家を買っても家計が圧迫されない状況になっているかどうか。貯蓄がほとんどないのに、無計画に家を買おうとすれば、住宅ローン減税で損か得かという話以前に、家計がクラッシュする恐れもあります。
だから私は、家計がギリギリなのに背伸びして買おうとしている人には、『いまは物件価格が高いので見送ったほうが良い』と話し、一方で家計に余裕がある人には『これからしばらくは物件価格の高止まりも考えられるので、買えるなら買ってもいい』とアドバイスしています。要は、“家計の状況から買える時が買い時”なのであって、誰にでも当てはまる買い時は無いのです」
多くの人にとって、家は人生で一番高い買い物。後になって後悔しないためにも、家計の状況と照らし合わせて冷静に判断すべきだろう。
Yahoo!ニュースより